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被災地医療支援活動でみえた薬剤師の役割と課題 〜災害時に求められる薬剤師像〜

インタビュー

更新日:2019.05.31

阪神大震災での医療支援活動以降、薬剤師の専門性を活かした被災地での活動が高く評価され、災害時に医療チームの一員としての役割が期待されています。日本災害医療薬剤師学会の理事であり、宮城県薬剤師会常任理事の髙橋文章先生に、東日本大震災後に行われた医療支援活動を中心に、被災地での活動を通してどのような課題が見えてきたか、薬剤師だからこそ果たせた役割や期待される任務、今後、期待することなどをお聞きしました。

全てが想定外であった東日本大震災

被災地での活動をお聞かせください。

髙橋最初に被災地での活動に携わったのは、1993年の北海道南西沖地震でした。当時は自衛隊札幌病院に勤務しており、地震発生当日の朝は、先輩が奥尻島へヘリコプターで向かい、他の人員で業務調整や支援物資の調達や選定をし、後方支援をしていました。最初は、自衛隊衛生部隊の薬品リストなどを参考に薬剤を選定したものの少し的外れだったようで、2回目、3回目の発送の時に、「抗不整脈薬と狭心症の貼付剤などが全然足りない」と言われてしまいました。
 東日本大震災では北海道の震災と同じような感じだろうなというイメージをしていましたが、誰の想定からも外れた規模の災害で、あるもので何とかするしかなく、選んでいるという状況ではありませんでした。振り返ってみれば、いろいろデータはありましたが、前もってやるという状況ではなかったですね。
 熊本地震の時は、大分県薬剤師会のモバイルファーマシーが出動しました。ところが、最初の揺れの後、翌日の朝に本震があり、車が若干壊れてしまったのです。モバイルファーマシーは、東日本大震災を契機に宮城県薬剤師会で開発したもので、被災地への初めの出動であり、開発者として責任があるだろうということで現地へ向かいました。発電機の不具合や燃料の調達をどうするか、トイレタンクの交換の要領など、細かい使い方を説明しました。

被災地の外から来る薬剤師にどのような役割を求めますか。

髙橋被災地では、薬剤師に3つの役割があります。1つ目は、DMAT(災害派遣医療チーム:Disaster Medical Assistance Team)や自衛隊のように、緊急的な医療チームとして誰よりも早く来て、今しかできないことをやる、訓練を受けたプロフェッショナルな集団、2つ目は、急性期から慢性期に移行する、つまり正常な医療が失われた状態の現場に出向き、支援してくれる薬剤師です。復旧が進むにつれ、通常の医療に移行していきますが、非常時から通常の医療に移行するまでの間、被災地の外から来る薬剤師だけではなく、被災地内の薬剤師も災害対応をします。その間、通常、平時に自分がやっている業務がどうなっているかということも大問題です。被災地では、その地域で、人の顔を知っている、道も知っている、地域の特性も知っている、そういう人がその場所に行って対応するのが適当だと思いますが、自分の薬局も被災しているわけです。そうなると、薬局の機能が失われなかった薬局には、普段より多くの患者さんが来るような状況で、医療支援活動をしている場合じゃないだろうというのも現実問題です。その際、被災地で対応する最適な薬剤師を動かすために、薬局機能が残った被災地の医療施設で通常の業務を支援することが3つ目の役割です。3つ目については、薬剤師が登録している都道府県を越えて活動する場合の法整備も今後検討する必要があります(保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令第12条第2項)。
 東日本大震災当時、僕が勤務していた病院も1人薬剤師で、僕が医療支援活動をしている間にどんどん処方箋がたまっていく。一方で、たまった処方箋の処理は誰もやってくれないので、夜病院に戻ってから調剤するしかありません。夜中12時過ぎまでかかり、家に帰って、朝起きて、会議して、被災地に向かう。そういう生活を2カ月ぐらい繰り返しましたね。

宮城県薬剤師会モバイルファーマシーと支援車両宮城県薬剤師会モバイルファーマシーと支援車両

経験を伝えるということ

被災地での活動を通じて、どのような震災対策が必要だとお考えでしょうか。

髙橋災害対応において、臨機応変な対応が重要です。経験が豊富な薬剤師は、ある程度、臨機応変な対応ができると思います。ただ、経験者も体力的にどんどん衰えていきます。僕自身、昔だったら2日ぐらい寝なくたって平気で働けましたが、今はなかなか難しいですよ。おそらく、一般の薬剤師が被災地に医療支援活動に行ったら、4日もすれば疲れちゃうと思います。だから、そういった活動に対応できるとしたら、やっぱり若くて元気な人ですが、経験や知識が先輩方に比べて足りない。先輩方は、経験を踏まえて、今回はこうしようという判断もできると思いますが、今度は体力がないですよね。これを取り持つのが、研修だと思います。研修会である程度活動できるような知識と経験とを踏まえた上で、活動してもらえればいいかなと思います。

宮城県薬剤師会常任理事の髙橋文章先生宮城県薬剤師会常任理事の髙橋文章先生

研修や災害対策マニュアルについて、どのようにお考えでしょうか。

髙橋今ある、被災地支援、被災地における薬剤師の活動に関する研修会や災害対策マニュアルや薬局版事業継続計画(BCP)などは、よく考えられていて非常に有用だと思います。マニュアルやBCPには、雛形が公開されています。雛形に沿って作成すれば、ほぼ網羅された間違いのない形のものが出来上がると思うので、ぜひ一度皆さん作ってみるべきだと思います。当然ないよりはあったほうがいいしですし、作ることによって、災害に対する意識もみんなの中に出てくるでしょうし、まずは一度手掛けてみるといいかなと思いますね。研修会に関しては、医療支援チームとしてセットで考えるものと、災害医療薬剤師学会の研修のような医療支援チームの中でも薬剤師に特化した部分の研修を行うものがあります。
 地域の災害医療コーディネーターに関しては、日本において災害対応は自治体単位に対応するものなので、行政との連携がうまくとれないと絶対に失敗します。だから、普段から災害対応について行政と話を詰めるためにも、マニュアルも必要ですし、研修会も必要だなというのは思っています。その点からすると、いろんな所で災害医療コーディネーター研修会等が開かれているのは、やはりいいことだなと感じております。

被災地において、薬剤師に必要な活動はどういうものになりますか。

髙橋『災害時に活動できる薬剤師のためのプロフェッショナルスタンダード』を災害医療薬剤師学会でまとめ、「災害医療支援薬剤師」登録のためのカリキュラムとしました(http://saigai-pharma.jp/about/regarding/)。細かいところでいうと、例えばロープの結び方や止血の仕方なども含めています。
 薬剤師だからこの仕事をしますというのは、駄目だと思います。われわれは、医療チームとして活動するのでできることは何でもやる、自分がやったら一番うまくできるということは、ぜひ自ら進んでやってもらいたいと思います。例えば、害虫が発生しないように殺虫剤を調達して、噴霧するという防疫活動は、通常の薬剤師の活動からすれば外れていますが、薬剤師には害虫駆除するための薬剤を調達してもらえる伝手があったからできた話です。だから、消毒の知識もありますしできることはトイレ掃除でもいいと思います。薬剤師だから私はやりませんというのはなしにして、できることは何でもやるということが重要です。

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