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疾患別 災害時における医薬品 薬物療法2 糖尿病、呼吸器疾患、てんかん

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更新日:2019.09.13

前回は被災地での調査で薬剤が最も多く処方された循環器疾患について解説しました。今回は、被災地での処方が多かった薬剤のうち、常用薬の中断が症状の致命的な悪化を引き起こす『糖尿病、呼吸器疾患、てんかん』について解説します。

糖尿病

糖尿病治療は、災害時においても、良好な血糖コントロールを目指し、低血糖を防止することが原則となります。被災地においては、糖尿病制限食の摂取は困難で、被災直後は平時に使用していた薬剤の入手も容易でないため、血糖コントロールが不良となり糖尿病の悪化のリスクが高いことが予想されます。
また、災害時は極度のストレスがかかり、体調不良を起こしやすいため、平時の「シックデイ対策」の応用も有用です。

内服薬

充分な食事がとれていない場合、被災から3日程度はそれまで内服していた薬は服用せず、できる限り受診を勧めます。食事がとれるようになってからは、できるだけ血糖値の測定を行い、内服薬の服用を開始できるように支援します。
主な内服薬の災害時における調節、休薬による病態悪化の危険性、災害時に懸念される副作用について、下表にまとめました。

表:主な血糖降下薬の災害時の対応 主な血糖降下薬の災害時の対応(文献1、2、4より作表)

DPP-4阻害薬
休薬による急な増悪のリスクは少なく、血糖依存性のため単剤で使用する場合は低血糖を起こしにくい薬剤ですが、SU 薬との併用により重症低血糖を惹起する可能性があり、注意が必要です。
SGLT2阻害薬
脱水が起こりやすいため、水分摂取量が十分でない場合は休薬も選択肢とします。また、尿路・性器感染症の副作用発症リスクがあるため、被災後から入浴できないなど、衛生面に問題がある場合には注意が必要です。
ビグアナイド薬
休薬による急な増悪のリスクは少ないが、脱水により乳酸アシドーシスを起こすリスクがあるため、休薬も選択肢とします。重度の腎機能障害患者に対する投与は禁忌であるため、内服を継続する場合は定期的な血液検査により腎機能を評価することが重要です。
SU薬
休薬による高血糖、内服継続による低血糖の両方に注意が必要です。
SU薬を再開する場合は、できるだけ少量のSU薬を使用し、血糖値やHbA1c、腎機能を確認しながら適宜増減します。

GLP-1受容体作動薬

注射剤ではあるものの、食事量による調節が不要なため、震災時でも継続しやすい薬剤です。ただし、投与初期には嘔気などの消化器症状が発現しやすいため、注意が必要です。

インスリン製剤

インスリン強化療法を行っている患者は、1型糖尿病患者、厳格な血糖コントロールが必要な2型糖尿病患者であり、インスリンの中断により数時間~1日で糖尿病性ケトアシドーシスを引き起こし命にかかわる危険があるため、たとえ食事が摂取できない状況であっても注射の継続は必須です。
BOT療法を行っているまたは混合型インスリン製剤を使用している患者は、ある程度インスリン分泌能が保たれている患者と予想できます。混合型インスリン製剤が入手できなかったとしても、基礎インスリン製剤と追加インスリン製剤で対応が可能です。

* 2型糖尿病患者で経口糖尿病薬では効果が不十分な場合、経口薬を継続したまま基礎インスリン分泌を補充する併用療法

POINT:服薬指導のポイント
低血糖、著明な高血糖を避けるため、食生活の状況を照らし合わせて自己血糖測定を促すことが重要です。重篤な低血糖を起こさないために、低血糖のリスクが高いインスリン製剤、SU薬などを使用している患者に対しては低血糖の症状と対処方法を説明します。また、著明な高血糖の可能性がある症状(全身倦怠感、消化器症状、著しい口渇)が現れた場合には早急に申し出るように伝えます。
インスリン治療を行っている患者のなかには、人前で注射をすることをためらう人もいるため、避難所では安心して注射ができる環境の確保も大切です。
【参考文献】

呼吸器疾患(気管支喘息、COPD)

災害時において、気管支喘息およびCOPDの増悪による入院が顕著に増加したことが報告されています1)。また、喘息患者において、吸入ステロイド等の抗喘息薬を中断した場合に喘息増悪が有意に増加し、抗喘息薬を継続できた場合においても、災害に対する強い不安を持っている患者では喘息増悪が有意に増加したとの報告もあります2)
災害発生後3日間の急性期では、救命救急が優先されるため、平時に使用している薬剤の入手が困難なことが予想されます。日本アレルギー学会『喘息予防・管理ガイドライン2015』では、災害が喘息に与える影響について、抗喘息薬の供給断絶、感染症の蔓延や寒冷曝露などの物理的ストレス、災害による精神的ストレスの3つの可能性が指摘されています。COPD 患者においては、上記の他に酸素吸入の中断も悪化要因となります。

災害時における喘息発作時の対応

喘息発作時は、発作強度にあわせた治療が重要で、中発作以上では酸素投与が必要です。また、小児と成人では対応方法が異なります。
発作強度別の治療法を下図にまとめましたので、参考にしてください。

表:喘息発作時のフローチャート 喘息発作時のフローチャート。詳細は日本アレルギー協会『災害派遣医療スタッフ向け アレルギー疾患対応マニュアル』
https://www.jaanet.org/allergy/pdf/allergic_diseases_manual.pdf)を参照(文献3より作図)

吸入ステロイド薬(ICS)

気管支喘息における薬物療法の第一選択はICSであり、吸入の中止は症状悪化の原因となり得ます。 喘息コントロールのために災害時においてもICSの調達を原則とし、代替薬はできる限り同薬効、同じデバイスの選択が望ましいと考えられます。しかしながら、災害時には平時に使用していないICSを使用せざるを得ない場合があります。その際には、日本アレルギー協会が作成した『災害派遣医療スタッフ向け アレルギー疾患対応マニュアル』に、喘息発作時、発作後の対応、吸入ステロイド薬の用量対応表が掲載されているので、参考にしてください。加えて、同マニュアルには、喘息発作時、発作後の対応等も紹介されているので、併せてご確認ください。
また、ICS吸入後にはうがいが必須ですが、食事摂取前や歯磨き前に吸入することで回避できることも災害時には有用です。

長時間作用性抗コリン薬(LAMA)、長時間作用性β2刺激薬(LABA)、配合剤

COPDに対する薬物療法には、LAMAやLABA、配合剤としてはLAMA/LABAやLABA/ICSが使用されます。薬物療法の中断は症状悪化の原因となり得るため、できる限り中断期間を短くすることが重要です。LAMA/LABAが入手できない場合、まずはLABA/ICSの使用を検討します。配合剤が入手できない場合は、単剤2種類の吸入を使用することとなります。平時とは異なるデバイスを選択せざるを得なかった場合、アドヒアランスの低下を防ぐため、LABAをツロブテロール貼付剤に変更することを検討します。

POINT:服薬指導のポイント
吸入薬は、大きく分けてドライパウダーとミストタイプがあり、吸入デバイスとしては、ドライパウダーにはドライパウダー吸入器(DPI)が、ミストには加圧式定量噴霧吸入器(pMDI)およびソフトミスト定量吸入器(SMI)があります。期待される治療効果を得るためには、充分な量の薬剤の吸入が必要なため、吸入デバイスが変更となった場合は、丁寧に吸入指導を行うことが重要です。
【参考文献】
  • 名倉弘哲、山内英雄 編、はじめる とりくむ 災害薬学、南江堂、2019年
  • Fukuhara A et al, Impacts of the 3/11 disaster in Fukushima on asthma control, Am J Respir Crit Care Med. 186 : 1309-1310, 2012
  • 日本アレルギー協会編、「災害派遣医療スタッフ向け アレルギー疾患対応マニュアル」(https://www.jaanet.org/allergy/pdf/allergic_diseases_manual.pdf)2017年
  • 中根茂喜ほか、気管支喘息、薬局、Vol67; 13; 3443-3450、2016年

てんかん

てんかんは、脳の一部の神経細胞が突然一時的に異常な電気活動(電気発射)を起こすことにより生じるてんかん発作を反復的に起こす疾患です。てんかん発作の予防には、抗てんかん薬の継続的な服用が必須であり、急激な中断によりてんかん発作が誘発される場合があります。
てんかんの治療は単剤療法が基本となりますが、単剤療法を数剤試みてもその発作が十分コントロールできない場合には多剤併用療法となります。その場合、一剤変更しただけでも発作を誘発するリスクが高くなります。そのため、災害時においても、平時に服用していた抗てんかん薬の継続が原則です。常用薬の特定には、てんかん患者が持っている「緊急カード」(日本てんかん協会、日本てんかん学会が作成)の確認も有効です。
どうしても常用薬の継続ができない場合や常用薬が不明な場合、効果発現が早いこと、幅広い発作型への効果があり、悪化させる発作がないこと、状況に応じて使い分けできるように剤形が多様であること等の条件を考慮し、代替薬の第一選択としてレベチラセタム、バルプロ酸が考えられます。
主な抗てんかん薬を下表にまとめました。なお、効果が現れる定常状態に達する時間の目安は、半減期の5倍程度の期間がかかります。

表:主な抗てんかん薬 SJS: Stevens-Johnson症候群、TEN:中毒性表皮融解壊死症、DIHS:薬剤性過敏症症候群
主なてんかん薬と特徴(文献1、2、3より作表)

レベチラセタム

腎排泄型で、代謝酵素への影響は少ない薬剤で、投与3 日程度でほぼ定常状態に達することから早期の効果発現が期待できます。ただし、添付文書には、増量する場合は2週間以上の間隔をあける必要がある旨の記載があります。初期の重篤な副作用はまれですが、汎血球減少などには留意する必要があります。錠剤の他に注射剤、ドライシロップ製剤もあります。

バルプロ酸

普通製剤は投与3日程度、徐放製剤は5日程度で定常状態に達し、代謝酵素への影響は比較的少ない薬剤です。一方で、ラモトリギンの消失半減期が約2倍延長するため併用注意であることや、カルバペネム系抗生物質との併用でバルプロ酸の血中濃度が下がるため併用禁忌と設定されるなど、他の常用薬との相互作用の確認が必要となります。また、重篤な肝障害のある患者に対しても禁忌となっています。

POINT:服薬指導のポイント
てんかん患者のなかには、病名を伝えることをためらう患者もいるため、精神面での配慮が必要です。
代替薬はあくまでも緊急的な対応であり、できる限り早く平時と同じ抗てんかん薬を服用する必要があります。近隣で専門医が対応可能な施設に関する情報収集を行い、速やかな受診を促すことも薬剤師の重要な責務です。東日本大震災では、製薬会社提供の抗てんかん薬が日本てんかん学会を通じて被災地に輸送され、その保管場所が学会のホームページに掲載されました。将来の震災においても、参考にしてください。
【参考文献】
  • 名倉弘哲、山内英雄 編、はじめる とりくむ 災害薬学、南江堂、2019年
  • 市川暁ほか、てんかん、薬局、Vol67; 13; 3459-3464、2016年
  • 日本神経学会監修、てんかん診療ガイドライン2018、医学書院、2018年

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