- 中外合同法律事務所
- 赤羽根 秀宜 先生
1997年 帝京大学薬学部卒業後、薬剤師として薬局勤務。その後、2008年 東海大学法科大学院卒業。2009年より弁護士登録(第二東京弁護士会)中外合同法律事務所所属。医療・薬事・健康・介護にかかわるビジネスや、薬局・医療機関等の業務に関し、法的支援を行っている。
1997年 帝京大学薬学部卒業後、薬剤師として薬局勤務。その後、2008年 東海大学法科大学院卒業。2009年より弁護士登録(第二東京弁護士会)中外合同法律事務所所属。医療・薬事・健康・介護にかかわるビジネスや、薬局・医療機関等の業務に関し、法的支援を行っている。
東日本大震災時では薬剤師業務に関連した複数の通知・事務連絡が発出されました。「通知・事務連絡」とは、省庁が法の解釈について見解を周知するための文書です。東日本大震災では、被災地での医療活動を円滑に行い、被災者に適切な医療を提供するために法の解釈の周知のみならず、通常の法の解釈を越えるような運用に関する通知・事務連絡が厚生労働省より発出されました。
東日本大震災以降の震災においても同様の通知をされることがありますが、災害の規模、特性、被災地域により異なりますので、実際の対応では都道府県、薬剤師会、厚生労働省のHP等の確認をお願いいたします。
薬剤師法22条では、薬剤師は原則「薬局以外の場所で、販売又は授与の目的で調剤してはならない」と定めていますが、同法但書及び同法施行規則13条の3において、災害その他特殊の事由により薬剤師が薬局において調剤することができない場合は薬局以外の場所で調剤を行ってもやむを得ないとして例外を設けています。
東日本大震災では、保険医療機関や保険薬局の建物が全半壊し、この例外に基づいて代替する仮設の建物で診療や調剤を行う場合が想定されましたが、保険診療等とすることができるのかという問題があったため、両者の間に場所の近接性と診療体制などで保険医療機関等としての継続性が認められれば、保険診療や保険調剤として取り扱って差し支えないと事務連絡で周知しました。
関連する現行法 | 通知 |
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薬機法では、薬局開設者はその薬局において休止や「厚生労働省令で定める事項」等を変更する場合、都道府県知事等への届出を義務付けています。この場合の「厚生労働省令で定める事項」には、薬局の構造設備の主要部分、営業日及び営業時間、薬局の管理者氏名等が含まれます。東日本大震災時に発出された事務連絡では、被災地の医療体制を確保するための一時的な措置として、これらの届出を省略しても差し支えないとしています。
また、被災地内で従事するために、薬局を休止する場合も同様に届出を省略できるとしています。薬機法では、薬局の管理者は、その薬局以外の場所で業として薬局の管理その他薬事に関する実務に従事する者であってはならないとされていますが、この場合は兼務にかかる許可は不要としています。
ただし、これらはあくまで一時的な措置であり、通常の手続きが可能となった段階で、速やかに通常に定められた手続きを行うことを求めています。
関連する現行法 | 通知 |
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薬機法49条1項では、処方箋医薬品の販売について、薬剤師は、医師等から処方せんの交付を受けた者以外の者に対して、「正当な理由なく、厚生労働大臣の指定する医薬品を販売し、又は授与してはならない」と規定しています。「正当な理由」については、平成17年の通知「処方せん医薬品等の取扱いについて」で「大規模災害時等において、医師等の受診が困難な場合、又は医師等からの処方箋の交付が困難な場合に、患者に対し、必要な処方せん医薬品を販売する場合」を挙げています。
東日本大震災は同法の「正当な理由」に該当し、医師等の受診が困難な場合、又は医師等からの処方箋の交付が困難な場合において、患者に対し、必要な処方箋医薬品を販売又は授与することが可能」であることが改めて事務連絡として周知されました。
関連する現行法 | 通知 |
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医療用麻薬及び向精神薬の取り扱いに関しては、薬機法だけでなく麻薬及び向精神薬取締法によって「処方せんにより調剤された」麻薬及び向精神薬以外を譲渡してはならないと規定されています。そのため、たとえ前記の処方箋医薬品にかかる「正当な理由」の要件を満たしたとしても、処方箋なしでの販売は法律に反することになります。
東日本大震災では、事務連絡により、医師等の受診または処方箋入手が困難な場合は、麻薬小売業者等が、被災者の患者さんの症状等について医師等へ連絡し当該患者さんに対する施用の指示(麻薬の施用にあっては麻薬施用者からの指示)が確認できる場合には、患者さんに対し、必要な医療用麻薬又は向精神薬を施用のために交付することが可能であるとしています。なお、記録を「適切に保管・管理」することが義務付けられているため、確認した医師の氏名(麻薬の場合は麻薬施用者番号等)、患者さんの氏名及び住所、薬剤名及び数量・販売日時等の記録をしておく必要があります。
また、向精神薬については、翌日の通知で、医師等からの施用の指示については、事前の包括的な施用の指示も含むとした上で、具体例として、「患者さんの持参する薬袋等から常用する向精神薬の薬剤名及び用法・用量が確認できる場合に当該向精神薬を必要な限度で提供することについて事前に医師等に了承を得ている場合」を挙げています。なお、事前に了承を得ている医師等に患者に 提供した薬剤名及び数量について報告を行うことが必要です。
関連する現行法 | 通知 |
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厚生省(当時)は、平成元年に「調剤は、患者等が持参する処方せんを受け取って内容を確認することにより完結するものであり、ファクシミリで電送された処方内容に基づいて行う薬剤の調製等は、患者等が持参する処方せんの受領、確認により、遡って調剤とみなされるものであること」との見解を示しています。
東日本大震災で発出された事務連絡では、被災した患者が被災地以外の薬局で調剤を希望する場合、処方箋をファクシミリなどで薬局に送付すれば、処方箋原本を入手するまでの間は、送付されたファクシミリ等を「処方箋」として扱い、患者に医薬品を提供しても問題ないとしました。ただし、被災地の医師と連絡が取れることが前提で、通常の手続きをすることが可能になった段階で、医療機関から処方箋の原本を入手することが必要となります。
関連する現行法 | 通知 |
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保険診療等として患者が平時に医療の提供を受ける場合、窓口で被保険者証などを提示することを要します。東日本大震災では、被災に伴い被保険者証などを紛失した場合においては、氏名、生年月日、事業所名(被用者保険の場合)又は住所(国民健康保険及び後期高齢者の場合)が確認できれば保険診療とできる旨の事務連絡を発出しました。同年5月に、7月1日以降は、原則として通常どおり被保険者証等の提示が必要となる旨を連絡しました。
関連する現行法 | 通知 |
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平時に、保険薬局等は、被保険者等より一部負担金等の支払いを受けることとなっています。東日本大震災においては、被災者の一部負担金に関して、同年5月末日まで猶予することができるものとするという事務連絡が発出されました(被災者の要件については通知を参照)。
被保険者証等が提示できない場合には、① 健康保険法及び船員保険法の被保険者及び被扶養者である場合には、氏名、生年月日、被保険者の勤務する事業所名、住所及び連絡先 ② 国民健康保険法の被保険者又は高齢者の医療の確保に関する法律の被保険者の場合には、氏名、生年月日、住所及び連絡先(国民健康保険組合の被保険者については、 これらに加えて組合名)を調剤録に記録しておくことが必要です。
本通知に基づき一部負担金の支払いを受けることを猶予した場合は、患者負担分を含めて10割を審査支払機関等へ請求することとしています。
関連する現行法 | 通知 |
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東日本大震災によりカルテやレセコン、調剤録等を滅失、汚損又は棄損した保険医療機関、保険薬局等は、平成23年3月11日以前の診療等分については概算による請求を行うことを容認する旨の事務連絡が発出されました。請求額は平成22年11月診療等分から平成23年1月診療等分までの診療報酬等支払実績に基づき算出することとしました(詳細な計算方法は通知を参照)。
関連する現行法 | 通知 |
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平時において、薬局開設者は調剤済みとなった処方箋および調剤録を法令により定められた期間保存することを義務付けられています。
東日本大震災において発出された事務連絡では、建物の破損などにより、一定期間保存すべきとされている診療録や調剤録、処方箋などの文書をなくしてしまった場合でも関係法令に基づく保存義務違反にならないとしています。ただし、調剤録などをなくしてしまったときは、医療機関や薬局などは保存していた場所、なくした理由、なくした文書の名称などを記録した文書を作成し、保存することを求めています。また、出力ができなくなった磁気ディスクなどは、個人情報の流出などを防ぐため、破棄することや、患者の身体状態、病状、治療などについて作成された文書を紛失した場合は、患者が来診・来局したときに適切に説明するよう努めることも要請しました。
関連する現行法 | 通知 |
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東日本大震災以降の災害において発出された通知・事務連絡を以下にまとめました。参照ください。
分類 | 平成27年関東・東北豪雨 | 平成28年熊本地震 | 令和元年台風第19号 |
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調剤を行う場所、届出に関して
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処方箋、医薬品に関して
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被保険者証・自己負担金・診療報酬の扱いに関して
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文書の保管等に関して
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