薬剤師向け 災害対策情報サイト

人も地球も健康に|Yakult

災害亜急性期・慢性期における薬剤師の役割とは ~防ぎうる健康二次被害を中心に~ Part2

医師×薬剤師 対談

更新日:2022.12.12

Part2
災害亜急性期・慢性期において問題となる健康二次被害

災害救護フェーズに添った在宅医療

渡邉それでは後半のお話として、薬剤師の急性期以降における役割を踏まえ、その時期に問題となる健康二次被害の予防という点に目を向けていきたいと思いますが、隠れた健康二次被害は、長引く避難所生活の中ではもちろん、在宅医療においても十分に考えられると思います。薬剤師は、在宅医療を受けている患者さんへの配薬などを、医師の指示のもとで行っていくことが原則となります。薬局機能にもよりますが、こうした取り組みを、亜急性期の段階からも実践していけると、多くの健康二次被害の予防にもつながるように思います。やはり医師と薬剤師の連携のもと、在宅医療への対応も、地域ごとにしっかり考えていく必要はあるかと思います。

中尾医師にとっての在宅医療は、在宅でありながらも来院していただく場合と、医師が巡回をしてご自宅へ伺うという場合があります。それによっても対応は大きく異なりますが、配薬をともなう場合には、薬剤師はもちろんですが、他の職種や個別に訪問が可能な企業と協業して配薬するというのは、日常の延長線上として良い取り組みになるのかもしれませんね。

渡邉もちろんそういった方法もありますが、薬剤師が配薬を担うとなれば、その場で服用できているかどうかの確認に加えて体調の聞き取りをするなど、常に対面を心がけることも大切であると思います。医薬品による副作用などの状況もしっかりと確認して、問題ないかどうかを薬剤師の目線で評価することも重要になってくると思います。

中尾そうですね。現在のCOVID-19の感染状況のように、災害時には医療が逼迫する状況も考えられますので、災害時の在宅医療においても、医薬品の配薬・管理や副作用の状況、被災者の体調の聞き取りを薬剤師に行ってもらい、その報告に基づいて医師が対応するというような医薬分業が図れると良いと思います。

渡邉薬剤師としてそれを実現するためには、患者さんへのご説明の際には常にリスクアセスメントをしていくなど、日頃の業務の充実化を図ることも必要ですね。例えば、顔色・目の状況の変化や、声色がいつもと違うのではないかといった点を、見る、観察するというだけでも大きく違うと思います。日常の延長線上に災害医療があるものだと思いますので、日頃の業務の充実化に私たちも挑戦していくべきだと思います。

健康二次被害を未然に防ぐには

渡邉避難所などにおいて医療が提供できる環境や、看護師および保健師が充足した環境であったにもかかわらず、非常に多くの被災者が避難所で健康二次被害に悩まされた状況が厚生労働省のガイドライン1)でも示されています。医師や看護師、保健師のみならず、このあたりをしっかりと管理していける薬剤師というのも必要であるように思います。

避難所における健康二次被害防止

渡邉暁洋先生 ご提供

中尾実際に災害救護活動に参加すると、そうした健康二次被害を、必ずしも手を挙げて訴えてくれるわけではないことがみえてきます。家族や医療従事者に迷惑をかけたくないとか、妊婦さんであっても授乳などがはばかられ、そのために避難所には入らずにいるなどの状況も少なくありません。ですから、そのあたりの問題を積極的に医療従事者のほうから聞き取るぐらいの対応が望ましいのですが、医師や看護師がすべてに対応するには、災害救護活動のなかでは現実的に困難であることもあります。その場合、例えば配薬の際に、ひと言でもお声がけしたり、異変がないかなどを観察することを薬剤師が行うだけでも、そこで初めて何らかの疾患が潜んでいたのがわかることもあると思います。
 避難所にいる被災者は、日々の健康を崩さないようにしていただきたいということと、体調が崩れた場合には可及的に回復していただくということが、何よりも健康二次被害を防ぐ基本的な手段となりますし、ひいては災害医療に負担をかけないということにもつながると思います。

渡邉そうですね。予防という点では、例えばエコノミークラス症候群(急性肺血栓塞栓症)や生活不活発病であるならば、服薬説明とあわせて無理のない範囲での運動を指導するようなことも考えられますね。これらは、普段の薬剤師業務としても行っていると思いますし、そういった指導もしっかりと行っていくことで、医療提供を必要とする隠れた被災者も見出すことができると思います。治療の際に重要となるのがやはり”お薬手帳”になりますので、「災害時にも活用できますので、お薬手帳を日頃からご使用ください」という趣旨を平時から常にお伝えしておくことも、災害医療では活きてくると思います。

【参考】平成27年度 高齢社会白書(内閣府)

渡邉また、健康二次被害に限りませんが、高齢者をはじめとする要配慮者が急性期以降に亡くなるケースも多くみられています。亜急性期、慢性期の時期には特に、そういった被災者に対する特別な配慮も必要かと思います。

中尾要配慮者は、確かに体力的に他の被災者ほどめぐまれてはいませんし、一旦、体調を崩すと回復しづらいということもあります。ですから、特に配慮していくべきですね。

渡邉そうですね。また、環境変化に順応しづらいという特徴もありますので、体調不良の聞き取りや観察に関して、薬剤師が行うことが望ましいと思います。医師や看護師に伝えづらいことでも薬剤師には伝えてくれる被災者も多くいますので、とにかく話を聞くという時間や機会を、できる限りつくることも必要だと思います。

中尾要配慮者の場合、例えばスマートフォンを使うなど、ITによるコミュニケート手段を駆使して体調不良などの報告や訴えをしてもらうということが一様にできるわけではありません。そういった点にも配慮しておくべきですね。それをカバーするうえでも医療従事者の目でしっかりみていくことが重要ですので、薬剤師が日頃からそういった点を心がけておくのが望ましいと思います。

健康二次被害につながりやすい排泄問題

渡邉急性期以降で問題になり得る疾患として、排泄問題による健康二次被害もあげられます。

中尾排便がうまくいかなかったり、トイレに行かなかったりすることで起こり得る健康二次被害は、東日本大震災の際にボランティアからも耳にしています。発災から3週間後のある避難所では、まだ、菓子パン、おにぎり、カップラーメンで食生活をまかなっているという状況であったらしいです。そのような場合は、それなりのカロリーは摂取できてはいるのですが、通常の食事と異なる状況では便秘になってしまうことも考えられ、それにより、一層、トイレに行きたくないという悪循環を招いてしまいかねません。

渡邉そうした食の問題ももちろんですが、避難所生活が長引くなどの環境変化へのストレスも少なくはないと思います。管理されているようなトイレ環境であれば良いのですが、トイレの衛生環境が悪いとなれば、トイレに行きたくないとか、排泄を我慢することも悪影響がありますし、トイレに行きたくないから食事や水分をとらなくなることによる健康二次被害も、これまでに多く経験しています。そういったことが起こらないようにするためのトイレ環境や環境衛生の改善においても、薬剤師のできる範囲で取り組んでいくことは必要かと思います。

中尾トイレ環境や環境衛生の改善はもちろん、できるだけ日頃の生活に戻し、それを維持していけるようなサポートも必要になると思います。食料品の供給がある程度安定していることが前提とはなりますが、例えば、避難時期の食事の内容を可能な限り変えたり、体調を日頃の生活に近づける働きが期待できるサプリメントなどを食事に加えていくといった工夫をこらすことも大切だと思います。

健康二次被害の予防に薬剤師が取り組むために

渡邉薬剤師は避難所での配薬や一般用医薬品を含めた医薬品の管理を行い、服薬を継続させていくということが、中心に携わっていくべき部分であると思います。一方でまた、環境衛生に具体的に介入できるという面もありますので、避難所で起こりうる健康二次被害には特に注意していかなくてはなりません。環境衛生を整えることによって健康二次被害を予防するという考え方をしっかり持つことが重要だと思います。

中尾それにはまず日頃から地域に根差した薬剤師を意識して、医薬品に限らず、健康維持するようなものまで、信頼して連携できる薬剤師であってほしいと思います。また、近年は災害が特に多くなっており、多種多様になってきています。複合化もしてきており、災害図は変わってきていると思います。医師も薬剤師も、職種がわかれてはいるのですが、日頃から連携を心がけ、その延長線上として、災害時にはお互いに補完し合う仕組みや意識も必要であると思います。

渡邉そうですね。また、薬剤師は医療のロジスティックを支えることを念頭に、地域全体や、医療提供するにあたっての俯瞰的な視野を持っていくことが、健康二次被害を予防するうえでも、災害医療としても、意味のある活動につながると思います。

  • マルチプロバイオティクスサプリメント

お役立ち情報一覧へ戻る