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薬剤師に望まれる”変化”への対応

インタビュー

更新日:2022.12.26

日本災害医療薬剤師学会では、渡邉暁洋先生を学会長に迎え、医薬品の専門家として災害時に薬剤師の職能を十分に発揮すべく、変化を遂げようとしています。近年、気候変動などにより、国内ではかつて想定していなかった災害が増加し、また、感染症などとの複合化によってその対応は多岐にわたり、より柔軟性が求められるようになっています。災害図が刻々と変化していくなかで、同学会では今後、どのような未来図を目指すのか、新学会長にお聞きしました。

医療救護活動フェーズに応じた薬剤師の役割

災害救護活動フェーズごとに異なる薬剤師の役割は、具体的にどういったものになるのでしょうか。 

渡邉災害初期の対応には、災害救護活動フェーズの考え方が用いられます。
 超急性期や急性期には、薬剤師も医療チームの一員として派遣されたり、病院薬剤師であればDMATの一員として参加するなど、薬局外で仕事をする場面が多くなります。医療チームの一員であれば、医薬品の管理や代替薬の提案など、医師をサポートするような対応も必要になってきます。また、薬事コーディネーターを委任された薬剤師であれば、行政との連携をとり、現場と行政との橋渡しをする役割もあります。この時期は急性期医療を提供するための体制を整える意味合いが強く、情報をまとめたり、マネジメントしていく業務も大切な役割です。
 また、発災直後は被災者の安全確保のため、一般市民でもできる外傷などの応急処置や止血などは、薬剤師としてもしっかりとできるように備えておいてもらいたいと思います。そのためには、三角巾法や包帯法なども知っておくべきですが、現在では看護師でも包帯法などを学ぶ機会が少ないこともあり、本学会では薬剤師向けにそのような技術の講習も実施するようにしています。
 亜急性期になってくると、避難所・救護所での医薬品管理や処方箋への対応が主となります。あわせて、避難所の衛生環境に気を配り、衛生管理を行うといったことも薬剤師の役割になってきます。
 慢性期になってくれば薬局機能を平時に近づけるための役割が多くなってきますので、こうした災害救護活動フェーズの考え方に基づき、また被災状況にも応じた薬剤師の役割を理解して活動することが重要となります。

長期的な災害支援としては、薬剤師にどういった役割が求められるのでしょうか。

渡邉長期的に薬剤師に求められる役割は、やはり被災地支援の継続となります。しかし、災害救助法の適用終了後には、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(薬機法)等により、被災地の薬局での勤務や管理薬剤師になるということはできませんので、そういった支援が求められるのであれば個人的にボランティアや臨時職員として支援に参加することになります。ひとつの例として、東日本大震災(2011年発災)の被害が甚大であった福島県で、医療従事者を含む地域住民の避難によって「無薬局地域」ができてしまっています。その地域を支援している薬剤師は調剤などの支援ではなく、行政への支援であり、保健師と薬剤師が協業して地域住民からのお薬相談や健康相談、ポリファーマシー対策に対応している状況です。このような保健師と連携した外部支援などは、薬剤師も長期的に行うことはできると思います。
 また、支援する側の薬剤師としては、災害直後には運営困難な薬局に対する開局支援、救護所などの調剤支援に入る薬剤師派遣というかたちが、日本薬剤師会の派遣スキームとして整理されています。しかし、現在はそれ以降の派遣スキームがなく、完全にボランティアでの個人的な支援活動になってしまうというのが現状であり、今後、被災地外の薬剤師が長期的な支援を行っていける制度を確立していくことは、解決していかなくてはならない課題のひとつにもなると思います。

世相とともに変化する薬剤師の役割とは

災害時の活動が多岐にわたっていくなかで、薬剤師の役割はどのように変化したのでしょうか。

渡邉阪神淡路大震災(1995年発災)や新潟県中越地震(2004年発災)のときには、調剤をするというよりも、公衆衛生的な衛生管理をするという考えで多くの薬剤師が活動していましたがあまり注目されていませんでした。近年では、医薬分業を背景に、災害時の薬剤師の役割として、薬のことをしっかり管理・運用し、物流として促すことができる点が広く認識され、医薬品に関することは薬剤師に一任するという流れが生まれ、医療チームの中に薬剤師がいると医療の質が上がることが周知されてきました。多くの災害での対応を経て、衛生資機材の管理や環境衛生などロジスティック的なことや、薬品管理、調剤、服薬指導から実際に薬を服用しているかの確認まで、サプライチェーンを含めた医療のサプライ全体に関わるようになってきたことも認識されるようになってきました。こうした流れで、災害時の薬剤師の役割が広がり、変化してきているのだと思います。

災害対策に関わる多くの医療従事者のなかで、薬剤師は今後どのような位置づけになるのでしょうか。

渡邉薬剤師は、臨床の面からみると医師や看護師と関わっていく職種です。しかし、救急の仕事をやっていくなかでは救命士や救急隊と関わることも多くありますので、薬剤師の存在は救急隊にも理解されています。また、行政の中でも医療を担当する部門と薬事を担当する部門は縦割りの構成ではありますが、そのいずれにも精通しているのは薬剤師です。医師とは違った視点で、製薬メーカー、医薬品卸、医療機器メーカーなどとも関わり、「モノを動かす」ための知識や情報をどこから取ってきたらいいのかを熟知しています。地域医療をみていくと、当然ながら医師・看護師、介護士や福祉士もいますが、地域包括ケアのなかで入退院のことなどにも、地域の薬剤師が関わっています。このように、医療を支える全ての人たちと関わるというのが、薬剤師の立ち位置ということになります。例えば、看護師の場合は医師の指示のもと医療提供を行いますが、薬剤師は常に医薬品のほうをみて業務を行います。そのため、非常に幅広く活躍ができる職種だと思います。
 また、昨今のCOVID-19の感染対策を講じていくなかで様々な緩和がなされてきており、それに伴って薬剤師の役割や位置づけも変化しつつあります。例えば配薬においても、宅配を外部業者に任せることができるようになったことで、オンラインでの服薬指導が解禁されました。今後も、このような業務の緩和・簡略化は進んでいくと思われますが、業務を簡略化していく以上はIT化やDX化にも目を向けて、薬剤師も扱えるようになっておくことも必要です。
 災害を定義することは困難ですが、国の政策では災害対策基本法に規定されているものを災害として扱います。しかし、医療という視点でみた場合は、地域を跨いで応援要請が必要な場合など平時の医療で対応できることを超えた範疇を災害と捉え、医療提供を支えていくことを重視すべきであると考えます。世相に応じて薬剤師の役割や位置づけも変化していきますが、その点を理解し、通常業務の時から災害を見据えた活動を行う必要があると思います。

地域の要になれるか?!
渡邉 暁洋 先生 ご提供

薬剤師にとってのIT化の重要性は、どのあたりにありますか。

渡邉効果のある災害対応、特に備蓄する医薬品を選定するうえでは、データに基づいて判断していくことが重要だと思います。例えば、急性期以降では地域の被災状況に応じて日々、変化できるということが望ましい災害対応になってきます。現在は、その地域ごとに疾病コードなどのデータもとれるようになってきていますので、そうしたデータに基づいて医薬品のサプライチェーンをしっかり組み立てることが薬剤師にはできますので、データをいかに活用して解析し、発注につなげていくかを検討することなどは、1日ごとにでもできることだと思います。
 また、大規模な薬局であれば、人員を避難所に派遣すると同時に、自局の機能を立て直していくということもできるかもしれませんが、規模が小さい薬局の場合は自局の機能を一旦停止して、被災地の薬局支援を行うなどの活動を優先する場合もあり得ると思います。そうした薬局規模に応じた適切な対応を判断するうえでも、広域災害救急医療情報システム(EMIS)のように、地域全体の薬局の被災状況などの集約化にも取り組んでいく必要があるかと思います。
 こうしたIT化で情報を一本化することによって、全ての被災者の状況や医薬品の供給状況をしっかり把握し、医の継続性を担保することが実現できると思います。
 一方で、このようなIT化やデータの活用は重要ではありますが、しっかり使いこなすための教育も必要だと思いますし、今後の薬学教育や学生教育などにも組み込んでいくことは重要だと思います。本学会としても、取り組んでいく課題のひとつであると考えています。

今後の日本災害医療薬剤師学会について

さまざまな変化に対して、学会として果たしていく役割をどのようにお考えでしょうか。

渡邉まず望ましい薬剤師像としては、普段の業務以外にも興味を持ったことに対して貪欲に追及してもらいたいですし、また一方で、薬剤師の業務の正当性を言語化してアピールしてもらいたいと考えており、それをけん引する薬剤師を目指してほしいと思います。本学会で果たしていくべき役割は、そういったところへのアプローチや情報提供をより多く行いながらその土壌をつくっていくことであり、単なる情報提供だけにとどまらず、どのような研修や教育をすすめるべきかという点も考えていきたいと思います。そこで、今後の学会には、教育研修を柱にした学術委員会を設置しています。
 また、対外的な支援をはじめとした協力関係を結んでいかなければ災害対応においては困難を究めますので、あらかじめ協定を結んだり、様々な機関と話し合いをするような渉外委員会も設置しています。こうしたことで、例えばNPO団体とも協定を結んで、薬剤師が必要であれば人員を派遣するなどの薬剤師派遣スキームも整理していきたいと考えています。
 日本は防災の面では進んではいると思いますが、危機管理という意味では欧米諸国におよばないところもあります。そのため、今後は危機管理や海外での動向の理解に関して国際委員会が情報を収集し、広報委員会を通じてホームページなどによる情報発信をしていくことも予定しています。国内の情報はもちろん大切ですが、海外では日常的に自然災害が発生していますので、そうした情報もしっかりと公開していきたいと思います。あわせて、身近な学会員の活動を多くの薬剤師が自分ごととしても捉えられるよう、活動のレポートを公開していきたいとも考えています。
 本学会で行う様々な研修会のご案内については、日本薬剤師学会をはじめ、日本病院薬剤師会、日本災害医学会などにもリンクさせ、可能な限り情報の窓口を増やしていきたいと考えており、学会だけにとどまらず、製薬会社や医薬品卸、学生部会にも働きかけていきたいと思います。
 災害医療は、日常の医療や生活の延長上にあると思いますが、災害に目を向けている人は、医療従事者を含めてまだまだ少ないと感じています。やはり基礎教育や教育体制を充実させることが大変重要で、それを先導する人材も必要ですので、プロフェッショナルを育成していくべきだと考えています。

マネジメントからみた防災災害対応における本学会の役割
渡邉 暁洋 先生 ご提供

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