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災害時に活用できるOTC医薬品

インタビュー

更新日:2023.01.30

避難所での気づきに基づいたOTC医薬品の活用

「災害時対応OTC医薬品集」の作成経緯について教えてください。

避難所に寄せられたOTC医薬品は薬剤師が整然と仕分けして供給されることが望まれるが、時折、煩雑な状態も見受けられた。

鹿村私の周囲には、発災時に被災地で支援活動を行う薬剤師の知人が多く、東日本大震災(2011年 発災)の際にも多くの薬剤師が支援活動として被災地に赴きました。私自身もすぐにでも支援活動に参加したい気持ちがありながらも、自身の薬局の機能継続などのために被災地には行くことができない状況にありました。しかし、そうした状況のなかで、栃木県足利市に設営された避難所でのお薬相談ボランティアに参加することができ、その場で要指導・一般用医薬品(OTC医薬品)の相談や服用している医薬品の鑑別などに携わり、災害現場に直接行くことができなくても、周辺の地域や遠隔地からでも被災者の支援ができる方法があることを知りました。
 また、災害医療支援活動においては医薬品の供給が欠かせませんが、情報の混乱などにより、計画性がないままに一方的に被災地に医薬品が送られ、その仕分けに手間取り、医薬品が十分活用されない事例も報告されています1,2)。避難所の実情としても、OTC医薬品がやや煩雑な状態でまとめて置かれ、「ご自由にお取りください」といった貼り紙があるような状態がみられることもありました。こうした状態では、医薬品の知識のない一般の被災者にも自己判断での服用を促すこととなります。例えば、抗コリン成分を含む医薬品の服用には、前立腺肥大症や緑内障の方など、注意を要する疾患の方もいますが、それに気づかないままに自己判断で服用してしまうといった危険性も感じられました。こうした仕分けや供給は薬剤師が行うことが求められ、人員としても十分であれば煩雑になることはありませんが、仕分けにかかる負担が大きくなると、医師とともに避難所などを巡回して救護活動に参加するといった本来の役割も難しくなります。
 OTC医薬品は、特に災害救護活動の急性期において、軽度の症状に適切に使用することで悪化を防ぎ、災害医療チームの負担を軽減するなど、災害時における有用性が高いと言えます。そこで、薬剤の仕分けにかかる薬剤師の負担を軽減させながら、OTC医薬品を有効活用する方法を考え、日本医薬品情報学会に課題研究班を設置して災害時に活用できるOTC医薬品のリスト化を進めることにしました。そうして作成したものが「災害時対応OTC医薬品集」3)です。

避難所に寄せられたOTC医薬品は薬剤師が整然と仕分けして供給されることが望まれるが、時折、煩雑な状態も見受けられた。

災害時対応OTC医薬品集における医薬品の選定

「災害時対応OTC医薬品集」は、どのような方針で作成されたのでしょうか。

表1
掲載医薬品の薬効分類
災害時対応OTC 医薬品集 掲載医薬品の分類
鹿村 恵明 先生ご提供

鹿村「災害時対応OTC医薬品集」の作成にあたっては、まず「JMAT携行医薬品リスト」や東日本大震災でも使用された日本薬剤師会による「薬剤師のための災害対策マニュアル」などの既存の「災害時医薬品リスト」や文献を調査することから始めました。基本方針として、高血圧や糖尿病など、OTC医薬品が存在せず対応できない慢性疾患や、腎不全などの重篤な疾患を持つ患者さんは災害医療チームに任せる必要があるため、対象からは除外しました(表1)。あくまでOTC医薬品で対応可能な軽度な外傷や体調不良が対象であり、災害救護活動の急性期に短期間のみ使用することを前提としています。それ以降は医療体制や薬局機能も、徐々に回復すると考えられ、災害医療チームや復旧した医療機関が対応することが望ましいと思います。
 また、もうひとつの基本方針として、医療用医薬品の不足時にも代替できるように、ロキソプロフェンナトリウム水和物やフェキソフェナジン塩酸塩、ファモチジンなど医療用医薬品と同一の成分を含有するOTC医薬品を選択することにしました。

表1
掲載医薬品の薬効分類
災害時対応OTC 医薬品集 掲載医薬品の分類
鹿村 恵明 先生ご提供

個々のOTC医薬品はどのような基準で選定されたのでしょうか。

表2
医薬品選定のポイント
災害時対応OTC 医薬品集 掲載医薬品選定のポイント
鹿村 恵明 先生ご提供

鹿村災害救護活動の急性期における軽度な外傷や体調不良が対象であることを前提として、活用できる薬効分類を見定めたうえで、選定したポイントはいくつかありますが(表2)、まず被災地においては飲料水が不足しがちにもなります。そこで、水なしでも服用可能な口腔内崩壊錠やフィルム状製剤を優先的に選択しました。OTC医薬品のシロップ剤は、水による希釈が不要で小児や嚥下困難な高齢者でも服用しやすく、被災地での有用性が高いと考えられました。それ以外にも、年齢制限が少なく幅広い年齢層で使用できるもの、妊婦・授乳婦でも使用できるもの、保存性に優れるもの、副作用や相互作用、禁忌などが少ないものなどを考慮しました。同様のものが存在するときには、より販売量が多く安定供給が期待できることを選定条件のひとつにもしています。さらに、これまでの災害救護活動の経験者からのヒアリングにより、埃や粉塵などへの対応として点眼薬、傷以外にも保湿や日焼け後の肌に使用できるワセリン等も採用しました。最終的に2016年の時点では、災害時対応OTC医薬品として56品目を選定しています。
 「災害時対応OTC医薬品集」は薬剤師を対象に作成しましたが、現在の薬学部の教育の場ではOTC医薬品を学ぶ時間には限りがあり、OTC医薬品の取り扱いに慣れていない薬剤師も多いと思われます。そうした薬剤師や登録販売者、あるいは被災者自身が判断できる医薬品情報も必要と考え、「災害時対応OTC医薬品集」に掲載されている個々のOTC医薬品ごとに「災害時対応OTC医薬品情報提供カード」(図1)も併せて作成しました。

表2
医薬品選定のポイント
災害時対応OTC 医薬品集 掲載医薬品選定のポイント
鹿村 恵明 先生ご提供
図1
災害時対応OTC医薬品情報提供カードのイメージ
災害時対応OTC医薬品情報提供カードのイメージ
鹿村 恵明 先生ご提供

「災害時対応OTC医薬品情報提供カード」には、どのような情報が掲載されているのでしょうか。

図2
ピクトグラムの一部イメージ
ピクトグラムの一部イメージ

鹿村「災害時対応OTC医薬品情報提供カード」には、OTC医薬品の外箱の写真、剤形の写真も掲載し、効能・効果、用法・用量といった添付文書同様の情報を示しています。本来は、被災地に支援物資として寄せられた医薬品の仕分けに役立てたいと考えており、薬剤師などの医療従事者が参考にすることを想定して医療用医薬品の情報も併せて掲載していますが、災害時には、避難所に災害支援の薬剤師が常駐しているとは限らないため、被災者本人が自己判断でOTC医薬品を使用する状況も考えられます。また、1つのOTC医薬品を複数人で分けて使用した場合、パッケージごとに同梱されている添付文書を複数人では確認できないといった状況も想定され、そうした状況下での活用も前提としています。一般の方や日本語が読めない方でも選択しやすく注意喚起できるよう、カラーユニバーサルデザイン(多様な色覚に配慮して、情報がなるべくすべての人に正確に伝わるように、利用者の視点に立ったデザイン)を考慮した配色のピクトグラム(図2)を取り入れたことで、医療従事者に限らず、多くの方に活用いただけるものと思います。

*:【参考】東京都 カラーユニバーサルデザインガイドライン

図2
ピクトグラムの一部イメージ
ピクトグラムの一部イメージ

災害時対応OTC医薬品集の活用

「災害時対応OTC医薬品集」は、どのような形での活用をお考えでしょうか。

鹿村平時のうちに、災害のための自局の備えや自己学習のために活用いただきたいと考えて「災害時対応OTC医薬品集」を作成しました。ただ、承認された効能・効果以外の使用方法を掲載していること、OTC医薬品の特性上、突然製造が中止される場合もあること等の理由もあり、災害医療に携わる自衛隊などからのお問い合わせや提供要請には都度応じているものの、一般には公開はされていません。また、「災害時対応OTC医薬品集」を作成した際、備蓄と被災地への供給方法についても検討し、掲載したOTC医薬品を「エッセンシャルOTC医薬品」として各薬局に置き、日常的に販売をすすめながらも常に一定量を備蓄し、災害時には薬剤師会の地域単位で医薬品をまとめて被災地に送る方法なども考案しましたが、残念ながら、現状では実現には至っていない状況です。「災害時対応OTC医薬品集」の平時の周知や活用が難しい現状では、発災時に「災害時対応OTC医薬品集」掲載のOTC医薬品を「災害時対応OTC医薬品情報提供カード」とともに被災地に送り、災害支援でOTC医薬品を活用してもらうことが、現状では最も現実的な活用になると考えていますが、災害時のOTC医薬品の活用について、関連学会や薬剤師会などで議論が重ねられ、少しでも考え方が普及していくことを期待しています。
 OTC医薬品は、薬剤師に相談しながら使用者本人の判断で使用する医薬品であることから安全性が重視されており、特に災害救護活動の急性期には有用であると考えられます。その多くはドラッグストアなどで登録販売者により販売されており、薬剤師の多くは調剤、あるいは要指導医薬品や第1類医薬品の販売にのみ対応しているケースが多いと思います。しかし、薬剤師が第2類、第3類医薬品の取り扱いにも慣れ、OTC医薬品も責任を持って販売し、患者さんの症状によっては受診勧奨するといった日常業務を積み重ねることで、薬局の利益とともにOTC医薬品に関する知識も蓄積され、災害時のOTC医薬品の活用だけではなく、災害医療での薬剤師の活躍にもつながると思います。

  • 仲谷博昭. 調剤と情報 9月臨時増刊号 2011; 17: 1375-1376
  • 名倉弘哲. YAKUGAKU ZASSHI 2014; 134: 3-6
  • 鹿村恵明 他. Jpn.J. Drug Inform 2017; 18(4): 242-250

災害時に有効活用できるOTC医薬品—災害時に対応できるOTC 医薬品集のあり方についての検討 (日本医薬品情報学会 平成26年度 課題研究)—

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