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災害時の管理栄養士の役割 〜多種職との連携をめざして〜 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国際栄養情報センター 国際災害栄養研究室 室長 坪山(笠岡)宜代先生

インタビュー

更新日:2023.08.28

坪山(笠岡)宜代先生
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
国際栄養情報センター 国際災害栄養研究室 室長
坪山(笠岡)宜代先生

災害時には救命と安全の確保が第一優先となり、厳しい状況の中で、避難者の栄養管理までは手が回らないことがあります。そうした状況を少しでも改善すべく、多くの災害現場に参画されてきた管理栄養士の坪山(笠岡)宜代先生に、災害現場における管理栄養士のご活動内容、災害時の食事の実情や問題点とともに、薬剤師と栄養士の連携についてお考えをお聞きしました。

避難所での栄養管理は後回しになりがちであるという現実

災害時の避難所における食事の現状について、教えてください。

坪山(笠岡)災害時の食事については、その量も質も不十分であることが大きな課題であると思います。
 甚大な被害をもたらした東日本大震災(2011年発災)の際に初めて、私も含めてのべ1,500人以上の栄養士が全国規模で被災地に派遣され、その後の災害でも栄養士の派遣が行われました。過去の災害では避難所における食事は“エネルギー(カロリー)を摂取し、生き延びれば良い”という考えが先立ち、食事の質や栄養管理への取り組みは後回しになりがちでした。現在では、生きるために必要な最低限の水や食料は迅速に提供されますし、過去の災害に教訓を得て、食事の内容も改善されつつありますが、多くの避難所では炭水化物を中心とした最低限の食事しか提供できていないという状況にあります。
 また、食事の質に避難所間での差が生じることも、1つの問題としてあげられます(図1)。物資の送達、避難所の規模や人数、ライフラインの状況などが避難所ごとに異なるため、全てを平等にはしづらく、避難所格差ともよべる事態を避けることが難しいのが現状です。

図1 避難所の提供食の栄養状況(宮城県)
原田萌香, 笠岡(坪山)宜代ら. J.J.Disast.Med. 2017, vol. 22, no. 1, p. 17–23.

災害時の食事においては、どのような点が問題になりますか。

坪山(笠岡)災害初期の食事は、菓子パンやおにぎり、カップ麺などでまかなうことが多くなります。基礎疾患や食物アレルギーを有する方、高齢者、乳児など、食事への特別な配慮が必要な要配慮者は、食べられる物を確保することが困難な場合があります。また、基礎疾患を有する避難者は過度なストレスや生活の変化を余儀なくされることにより血圧や血糖などが急速に悪化することも危惧されますので、要配慮者の食事の問題は早急な対応が必要となります。過去の災害では、下水が使用できなかったため、カップ麺のスープを廃棄できず全部飲むように指示されたという避難所の事例も報告されています。このような誤った対応が長引くことは、基礎疾患の悪化や健康二次被害を助長することにもなりかねず、早期に改善しなくてはなりません。
 災害時の食事支援では、避難者全体に対する「多数対応」とともに、このような要配慮者への「個別対応」も並行する必要があります。ここには管理栄養士の視点や知見が必要ですが、介入は困難で、災害現場に管理栄養士がいたとしても他の医療スタッフとの連携は十分ではなく、情報が届かないために対応が先延ばしになってしまうこともあります。過去の事例では、便秘を訴える避難者に管理栄養士の判断で食物繊維が多いタイプの野菜ジュースを提供しましたが、その避難者に対しては別の医療スタッフが便秘薬を渡しており、双方が気づかないまま二重に介入していたこともあります。こうしたことは、情報が共有さえされていれば、十分に避けられた事態でした。要配慮者の情報を多職種で共有し、ともにフォローアップしていく体制づくりは急務であると感じています。

画像:坪山(笠岡)宣代先生

“ごはん、食べられていますか?” そのひと言で状況は変えられる

災害時の栄養士との連携において特に薬剤師に担ってもらいたい役割はどういったものでしょうか。

坪山(笠岡)東日本大震災でのある避難所でのことです。避難者のおひとりが腎臓病でたんぱく質制限があるものの、毎食提供される食事のたんぱく質量がわからなかったために半分以上を廃棄していたということが、避難生活がはじまってから4ヵ月後にわかりました。もちろん医療スタッフも注意を払っていただいていたとは思いますが、食事のことについてはお聞きする機会もなく、ご自分から言い出すこともできなかったのだと思います。もしそこで“食事、とれていますか?”というひと言があったなら、4ヵ月も食事を我慢させることは避けられたのかもしれません。
 管理栄養士等の食・栄養の専門職は発災後、すぐに被災地に駆けつけることはなかなかできません。先に現地で支援活動に携わる薬剤師は、避難者の方々の服薬状況を確認し、薬の相談を受けた際には“食事で困っていることはありませんか?”などと、ひと言だけで良いので食事についても確認し、管理栄養士等にお知らせくださると助かります。また、在宅医療に携わる薬剤師には、避難所への移動が難しく在宅で過ごす高齢者や有病者の食事についても積極的に聞き取りいただきたいと思います。食事は薬剤の吸収や効果に影響する場合がありますので、薬剤と食事の情報は一緒に聞き取りをする意識で活動してくださると、より良い連携にもつながると思います。
 私たちは「避難所 食事ラピッドアセスメント」(表1)という、栄養状態を簡単に評価可能なチェックリストを作成しました。こちらに基づいて、食事の回数や内容を聞き取ってくださるだけでも、栄養支援の判断を促すことができますので、積極的に活用いただきたいと思います。
 また、便秘や口内炎は栄養不足を示唆するわかりやすいサインですので、そうした訴えがあれば、食事に問題がある可能性を考え、管理栄養士等に情報をつないでくださることが望まれます。

表1 避難所食事ラピッドアセスメント(暫定版)
坪山(笠岡)宜代 先生 ご提供

多職種で、ともに災害時の食事の改善をめざすために

管理栄養士等の災害に対する現在のご活動、今後の取り組みについてご紹介ください。

画像:坪山(笠岡)宣代先生

坪山(笠岡)日本栄養士会災害支援チーム(JDA-DAT)は、被災地で「特殊栄養食品ステーション」1)の設置に取り組んでいます。被災時には、通常の食品とともにアレルギー対応食や離乳食、嚥下困難な方に向けた軟らかい食事などの特殊栄養食品が届けられますが、JDA-DATはそれらを特殊栄養食品ステーションに備えており、必要に応じて栄養支援を行うことができます。要配慮者の対応に迷う場合は、特殊栄養食品ステーションにご相談ください。
 また、医薬基盤・健康・栄養研究所では食料の備蓄を推奨しています。実は、一般家庭での災害に備えた食の備蓄は近年もあまり進展がなく、備蓄率は半数強に留まっています2)。この要因の1つは、災害への備えは、自分だけは大丈夫という感覚や、義務的であるという意識が根付いているためだと思われます。日本災害食学会では災害食の認証を行っています。また、災害食を国際基準にする取り組みも行っており、少しでも楽しみや意義を感じてもらえるように、災害食がキャンプや登山、海外旅行などのレジャー、宇宙食としても使えることを知っていただき、備蓄に対する意識を変えていただく試みを行っています。

災害時の食事の改善のために、薬剤師や薬局が備えられること、支援できることは何でしょうか。

坪山(笠岡)避難所生活では食欲がわかなくなってしまいますし、見慣れない食事はもっと食べたくなくなるものです。そのため、一般のご家庭でも災害時にもなるべく普段に近い食事をとれるような備蓄を意識してくださるよう啓発していくことも大切だと思います。薬局は地域の要配慮者の多くも利用していますので、災害時の備えについて情報発信することの意義は大きいと考えます。例えば薬局内で、来局者の目に留まりやすい棚の空きスペースなどを利用して災害食認証商品()やストック例を置いておくだけでも、啓発につながるのではないかと思います(図2)。
 同様に、支援する際にも、できる限り普段の食事に近いものを用意することが望ましいと思います。食料の支援はもちろん大切ですが、温かい食事を食べるためのカセットコンロや熱源、食器類を揃えてあげることも必要で、そうした配慮が支援の際には重要になってくると思います。
 私たち栄養士以上に、薬剤師は普段から要配慮者を把握しているという強みがあります。そのため災害時の連携において、そうした強みを避難者の食事の支援へと役立てる体制・システムを、協力しながらつくっていければと期待しています。日本災害医学会では、災害時の食をサポートするための連携に関する“災害時「食べる」連携研修会”を開催すべく委員会にて検討を進めており、来年(2024年)からは試行コースが開催される予定です。ぜひこうした研修会を活用くださり、薬剤師の方々も、災害時の食を支える一員として活躍いただきたいと願っています。

  • 災害食のうち、災害時に役立つこと、および日常でも積極的に利用可能な加工食品について、日本災害食学会が示す日本災害食基準を満たしていることを学会が認めた食品。
図2 災害時に備えた食品ストックガイド
農林水産省「災害時に備えた食品ストックガイド」「要配慮者のための災害時に備えた食品ストックガイド」より引用
  • 農林水産省「要配慮者のための災害時に備えた食品ストックガイド」
  • 令和元年 国民健康・栄養調査報告

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