薬剤師向け 災害対策情報サイト

人も地球も健康に|Yakult

災害時の医療における外国人への対応|一般財団法人ダイバーシティ研究所 代表理事 田村太郎氏

インタビュー

更新日:2023.12.22

災害時の医療では、より早くより多くの被災者を支援することが優先されて、少数派への配慮は後手に回りがちです。そうした中で、外国人被災者は、言葉の壁や文化の違いから困窮しやすい立場にあります。今回は、長年外国人への支援活動に取り組み、復興庁 復興推進参与やダイバーシティ研究所 代表理事として災害時の被災者支援に携わる田村 太郎氏に、災害時の医療における外国人対応の現状と問題点、薬剤師が知っておきたい情報、求められる対応などについてお話しいただきました。

災害時に在日外国人がおかれる状況

外国人被災者が直面する問題には、どのようなものがあるのでしょうか。

避難所巡回の様子/田村 太郎 氏 ご提供
避難所巡回訓練の様子/田村 太郎 氏 ご提供

田村外国人は日本の災害時における対応やルールを知らないことが多く、取るべき行動がわからないことがあります。例えば、“避難所”というと日本人は体育館などの公共施設がまず頭に浮かびますが、外国では広場にたくさんのテントを張って対応するのが一般的であるため、地震の際に公共施設への避難を促しても「地震というものは建物が壊れるものだから、むしろ建物内は危ない」などの日本人の認識とはかけ離れた理由で、逆に避難を拒否されることがあります。また避難した場合でも、避難所においては、外国人被災者は言葉や食事、習慣の違いに戸惑い、孤独感を深めてしまうことがあります。日本の避難所でよくある雑魚寝スタイルも、避難所では個別のテント生活が常識とされる外国人にはなじめず、ストレスが大きいようです。一方、日本人から見ると、避難所でも大声で会話したりなどといった一部の外国人の行動は理解しがたいことがあり、みんなが大きなストレスを抱えている中では摩擦も生じがちです。こうした状況は、過去の経験や学習を通じて身につけている災害時の情報や経験が日本人と外国人との間で濃淡があり、理解が異なることから生じるものと言えます。
 また、避難の指示や避難所における案内など、災害時に流れてくる情報は普段の生活では使われない日本語も多くみられます。「余震」「炊き出し」といった日常生活では使わないような言葉は外国人には伝わりづらく、理解もしづらいために混乱が生じることも多くあります。

外国人被災者とのコミュニケートのうえで、やはり言葉の壁の影響は大きいのでしょうか。

田村確かに言葉の壁はありますが、現在は翻訳ツールや様々なアプリがあり、外国人でも基本的な災害情報は把握できていることが多いです。また災害時には、日本語を十分理解できない外国人のために、自治体が災害に係る情報を多言語で提供する活動を行う「災害多言語支援センター」を設置することも多く、近年の災害では外国人被災者はそのサポートを受けることができるようになってきました(図1)。
 ただし、たとえ正しく翻訳されていても、外国人には理解しづらい事柄もあります。例えば、日本人は“震度6”と聞けば直感的に大きな地震だということがわかりますが、実はこの尺度は日本独自のものであり、外国人にはそれがどの程度なのか理解できないことがあります。また、避難所の救援物資などに「ご自由にお取りください」と掲示してある場合、日本人は「本当に必要であれば遠慮しながら1人1個ずつぐらいお取りください」と解釈する方が多いかと思います。この貼り紙をスマートフォンの翻訳機能などで翻訳すると「Take free」と訳され、外国人の中にはその言葉をそのまま解釈し、「好きなだけ持っていっていい」と捉えて日本人被災者との間でトラブルに発展してしまうこともありました。
 私たちはただ翻訳すれば十分に伝わると考えがちですが、常識や文化、制度の違いなどから正確に伝わらないこともあり、ここには大きなギャップが生じることがあります。

図1 災害多言語支援センターの役割
自治体国際化協会『災害時の多言語支援のための手引き2018』より引用

避難所を利用できない外国人被災者もいるのでしょうか。

田村避難所に来た方は国籍に関わらず受け入れられます。また、外国人はそれぞれの出身ごとにコミュニティを築いていることが多く、そのコミュニティ内の宗教施設や食材店、レストランなどに自らの判断で避難するケースも少なくありません。
 問題が生じやすいのは旅行者が被災した場合で、特に観光客が多い地域では受け入れに苦慮することがあります。避難所は、外国人旅行者を拒否することはありませんが、大勢が殺到すると住民のための備蓄が足りなくなる可能性があります。最近は、旅行者をはじめとする帰宅困難者には、住民向けとは別の避難所を提供する方向性になってきていますが、大都市などでは人数に対して活用できる施設が足りず、まだ課題がある状況です。

外国人被災者における医療ニーズは一様ではない

外国人被災者に対応する際は、どのような点に留意すればよいのでしょうか。

田村外国人の薬剤や医療に対する考え方やニーズは、日本の考え方とは異なる場合があることを念頭に置いていただきたいです。例えば、日本人を含むアジア人は一般的に精神科の受診をためらいがちですが、世界には精神科の受診や薬剤に抵抗がなく、普段から気軽に利用する国もあります。そうなると、被災時に抱いた精神的な不安感に対してもすぐに相談し薬剤を求める人もいれば、その逆もあり、同じ立場に置かれていても、国民性により医療のニーズは大きく異なると言えます。また、日本に来る外国人は多様化しており、国籍も年代も幅広いものです。若い労働者や観光客だけではなく様々な方がいて、保険や適応される制度にも違いがあり、そこには多様な医療ニーズがあります。各国の事情を全て把握することは非常に困難ですが、国によって違いがあり、日本の常識が必ずしも彼らの常識ではないことを認識していただければと思います。

外国人被災者に特有の問題、医療ニーズには、具体的にどのようなものがあげられるでしょうか。

田村外国人は宗教上の制限がある方が珍しくなく、食事への配慮が必要であったり、アルコール消毒ができず非アルコール剤による消毒が必要であったり、女性に対して男性医師の診療が禁止されている場合もあります。この影響は通訳者にも及び、女性の被災者の診療では、たとえリモートでも男性通訳者は拒否されることがあり、男性通訳者の前では生理や女性特有の問題を相談しづらいなどの問題もあります。また通訳者と被災者の国や民族間の関係性にも配慮が必要です。内戦がある国もありますし、対立している間柄の人が通訳につくことは、避けなければなりません。
 薬剤的な面では、日本では販売されていない薬剤を求められたり、自国から携帯した薬剤を使いきり、同様の薬剤あるいは代替薬を提供してほしいというニーズが多いと思われますが、その求められている薬剤が何なのか医療従事者が断定できなかったりするなどの問題が考えられます。

外国人被災者に対して薬剤師に求められる知識と役割とは

外国人被災者への対応において、特に薬剤師が知っておくべき情報や準備すべきこと、求められる役割をどうお考えでしょうか。

田村COVID-19による国際間の人口移動が緩和され、日本を訪れる外国人が再び増えています。アジアの経済成長などを背景に、訪日外国人の国籍も多様化しており、日本独自の風景や文化を求め、在住外国人が少ない地域でも意外なほど多くの外国人が訪れていることもあります。外国人居住者のデータは出入国在留管理庁から(図21)、外国人旅行者のデータは日本政府観光局(JNTO)から(図32)発表されていますので、それらを参考に地域の外国人の状況を把握して、災害時の薬局の対応をシミュレーションしておくことは有用であると思われます。
 また、国によって薬剤を巡る文化に違いがあることは理解しておいてほしいと思います。たとえば、常備薬やご家族へお渡しするものとして日本のドラッグストアで目薬や胃薬を購入する外国人も少なからずいますが、母国では市販薬が普及しておらず薬剤師に相談して薬剤を購入する習慣がないところもあり、薬剤師や薬局の役割をあまり理解していない外国人もいます。そうした外国人との接点をより多く持つうえで、国内の外国人の多い地域では薬剤の提供に限らず、地域の外国人住民の子供を対象とした学習支援教室や生活相談会の開催を通じて外国人支援に取り組んでいる薬局もあります。こうした例も参考にしていただきながら、この他にも、災害時にも有用となるお薬手帳の活用を促すなど、日頃から外国人住民の方々には薬剤師や薬局をより身近に感じてもらえるように働きかけておくと、災害時のコミュニケーションもスムーズになるのではないかと思われます。

図2 在留外国人 推移(2018-2022)
出入国在留管理庁. 在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表より作図
図3 年別 訪日外客数の推移(2018.01~2023.10)
日本政府観光局(JNTO).訪日外客統計 時系列推移表より作図

言葉の問題により薬剤師だけでは外国人被災者への対応が難しい場合は、どのような対処が考えられるでしょうか。

関東・東北豪雨での多言語情報提供の様子/田村 太郎 氏 ご提供
関東・東北豪雨での多言語情報提供の様子/田村 太郎 氏 ご提供

田村自治体などが「災害多言語支援センター」を開設していれば、そこに連絡して通訳を手配してもらうこともできます。ただしこの連絡の際には、その言語が何語であるかを伝えていただく必要があります。わからない場合は、まずはやさしい日本語()で「何語を話しますか」などと問いかけたり、各国の言語が書かれたシートを見せて理解できる言語を指さしてもらうなど、工夫してコミュニケーションをとっていただければと思います。

やさしい日本語:普通の日本語よりも簡単で、外国人にもわかりやすい日本語。阪神・淡路大震災をきっかけに、外国人が災害発生時に適切な行動をとれるように考え出された。平時における外国人への情報提供手段としても研究され、様々な分野で取り組みが広がっている。

外国人被災者に対する災害医療の展望について、どうお考えでしょうか。

田村現在、医療現場では、リモート通訳の導入が広まっていますが、災害時にもそれらを利用できるように体制整備が進められています。外国人被災者からの各種ニーズを把握して、自治体職員などへ伝達する役割を担う人材の育成を目的に、総務省が2018年度から実施している「災害時外国人支援情報コーディネーター」の研修でも、リモート通訳と連携する訓練が行われています。最近の災害では指定避難所に行けば数日以内にWi-Fiがつながりますし、今後は災害時においてもリモート通訳が普及すると予想されます。
 外国人住民や観光客の増加を踏まえ、各地で多言語での情報提供や通訳のための研修、外国人も参加する避難所運営訓練などが実施されています。薬剤師の方々にも、こうした訓練や研修に参加していただき、災害時に外国人が直面する課題に関心を寄せていただければと思います。

お役立ち情報一覧へ戻る

9