薬剤師向け 災害対策情報サイト

人も地球も健康に|Yakult

緊急企画 -感染対策における薬剤師の果たすべき役割- 災害時における衛生管理 平時での感染症対策と発災時の新型コロナウイルス感染症対策

インタビュー

更新日:2020.08.04

現在の東大病院における取り組みと薬局の現状

平時と同じ基本の対策を粛々と

東京大学医学部附属病院では、現在、どのような感染症対策をなさっていますか。

高山新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、感染対策が声高に叫ばれていますが、感染対策の基本は平時でも新型コロナウイルス感染症流行下でも変わりません。それは、米国疾病予防管理センター(CDC)のガイドラインで提唱されている標準予防策と感染経路別予防策というものです。標準予防策とは、すべての患者さんに適用される対策、感染経路別予防策とは感染源となっている病原微生物の感染経路を考慮して感染症の患者さんに適用される対策ですね。当院においてもこれらの感染対策を軸として平時から感染対策チーム(ICT)が組織され、全病院的な感染管理が行われています。
 新型コロナウイルス感染症流行下においては、病原体である新型コロナウイルスの感染経路は何かを考え、飛沫感染と接触感染が主な感染経路で、空気感染はなさそうだという情報に基づき粛々と標準予防策と感染経路別予防策を講じています。言い換えれば、新型コロナウイルス感染症の流行により慌てて特別な感染対策を考えるのではなく、平時から行っている感染対策の基本を念頭に対策を講じるべきであるということです。今回は、この基本の感染対策が十分行われていないと指摘されていた地域医療においても感染対策の弱さが露呈したと感じています。

東京大学医学部附属病院 薬剤部|感染制御認定薬剤師・厚生労働省 日本DMAT隊員|高山 和郎 先生

本来であれば、薬局などの医療機関でも常に感染対策をしていれば、特に特別な対策をする必要はないということでしょうか。

高山平時でも新型コロナウイルス感染症流行下でも患者さんが来院するということは同じで、患者さんがなんらかの感染症に罹患している、あるいは耐性菌を保有している可能性を常に考慮する必要があります。医療機関において医療安全と感染対策は必須であり、本来はすべての患者さんに対して標準予防策をとり、状況に応じて感染経路別予防策をとる必要があります。
 これは病院でも薬局でも同様ですが、これまで薬局では感染対策がなかなか浸透してきませんでした。病院では事務職員を含め全職員が感染対策の講習を受けることが義務化されており、病院薬剤師も感染対策の知識がなければ患者さんの部屋に入ることすらできません。一方、多くの薬局ではこのような講習は行われておらず、感染対策について教育を受ける機会が不足しているのが現状です。薬局を含めた地域医療全体に言えることかもしれません。このような状況下で災害時に感染対策をとるのは困難を極めるのではないでしょうか。だからこそ、平時から感染対策の実施体制を整備する必要があると考えます。

新型コロナウイルス感染症流行下における避難所での感染対策

新型コロナウイルス感染症流行下で、発災により避難所が開設された場合、どのような対策が必要でしょうか。

高山新型コロナウイルス感染症に対する対策の基本は、これまでのインフルエンザ等と同様に接触感染対策と飛沫感染対策です。これまで必要とされてきた災害時の感染対策が重要であることに変わりありません。ただ、災害時の避難所における感染対策を考慮した体制整備が追い付いていない現状にありました。そこで内閣府から2020年4月1日に各都道府県および保健所設置市および特別区の防災担当主管部(局)長、衛生主管部(局)長宛に「避難所における新型コロナウイルス感染症への対応について」の通知1)が、さらに4月7日には詳細版の事務連絡2)が発出され、この新型コロナウイルスが流行している現況において災害が発生し避難所を開設する場合の感染対策について周知されました(表)。これまでの避難所環境は感染対策が十分に考慮されているとは言い難い状況であることを考慮しての必要な通知であったと言えるでしょう。

表 事務連絡で周知された感染症対策 (抜粋)
  • 可能な限り多くの避難所の開設
  • 親戚や友人の家等への避難の検討
  • 自宅療養者等の避難の検討
  • 避難者の健康状態の確認
  • 手洗い、咳エチケット等の基本的な対策の徹底
  • 避難所の衛生環境の確保
  • 十分な換気の実施、スペースの確保等
  • 発熱、咳等の症状が出た者のための専用のスペースの確保
  • 避難者が新型コロナウイルス感染症を発症した場合、保健福祉部局と十分に連携の上で、
    適切な対応を事前に検討すること。

 今回、新型コロナウイルス感染症対策として厚生労働省からは「三密」、すなわち密閉空間、密集場所、密接場面の回避が提唱されました。避難所は基本的に三密な状況が生じやすい環境であるため、これらの回避がより重要になります。新型コロナウイルス感染症に対する感染対策を考慮すると、最も重要なのは手洗いの徹底です。必要とする人が必要とするタイミングで手指を清潔にすることができる環境を整える必要があります。また、飛沫感染対策としては、パーティションや段ボールなどで仕切りを設けて物理的に飛沫を防護するか、避難者の世帯間の距離を確保したり、避難所内では着用可能なすべての人がマスクを着用することも考慮されるでしょう。避難所の密集度にもよりますが、細かな飛沫が室内に充満することによる感染リスクの増大を回避するために、窓の開放や扇風機の設置などによる十分な換気も大切です。このような対策を講じた公的な避難所が設置できるよう平時から整備しておく必要があります。一方で密集を回避すべく避難者数の制限が必要となるために、公的避難所の不足が懸念され、在宅避難や私的な避難所が増加して支援ニーズの把握が困難になる可能性もあります。今回の新型コロナウイルス感染症の軽症者におけるホテル保護のような形を含め、避難所を増設する取り組みは他の取り組みと並行して行うべきでしょう。

医療関係者が感染しないためにはどのようなことに注意すべきでしょうか。

高山今回の新型コロナウイルス感染症対策では、薬局においても手指衛生の徹底や個人防護具の使用など感染対策実施の重要性が指摘されました。手指衛生はもちろんのこと、ガウン、グローブ、キャップ、マスクやフェイスシールドなどの個人防護具についても、その使用に関する適切な知識を持っていないと、過小または過剰な防護になる可能性が高くなります。平時はもちろんのこと災害時もしかりです。薬剤師もガウンを着用する場面、グローブを着用する場面など、ひとつひとつの知識を持った上で避難所における感染対策にあたるべきでしょう。基本的にはウイルスへの対応は0か1しかありません。例えば、新型コロナウイルスの曝露を防ぐためにガウンを着用するのであれば、ウイルスが存在すると想定して対応する必要があります。すなわち、ガウンにはウイルスが付着していると考えて要所で頻繁に手指消毒を行い、脱衣時にはウイルスを拡散しないよう細心の注意を払います。無意識のうちに脱衣時に自身や周囲を汚染し感染してしまう可能性がありますので個人防護具は脱ぐ時がとても大切なのです。本来、薬剤師も平時から感染対策の教育研修を受け適切な知識およびスキルを持った上で災害時の避難所における対応に臨むべきでしょう。このコロナ禍だからこそ、すべての薬剤師に災害時対応も視野に入れた感染対策の教育が行われることを切に願います。

次回予告
Part 2では、「災害時における感染症、消毒・滅菌の基礎知識」というテーマで先生にお話しいただきます。

お役立ち情報一覧へ戻る