薬剤師向け 災害対策情報サイト

人も地球も健康に|Yakult

コロナ禍の災害薬事教育

シンポジウムレポート

更新日:2022.11.28

日本災害医療薬剤師学会では、コロナ禍における薬事対応の経験をより多くの災害医療・災害薬事に携わる医療従事者に共有することで今後の災害支援活動に活かすことを目的に、2022年7月に日本災害医療薬剤師学会シンポジウムを開催した。同シンポジウムより、「コロナ禍の災害薬事教育」の演題を紹介する。

講演
日本災害医療薬剤師学会 理事
新潟大学医学部災害医療教育センター 
和泉 邦彦 先生

コロナ禍の防災を考える前に

 「防災」は、災害時の対応や判断を学ぶ一般教養であり、一般的にはアクティブ・ラーニング(学習者の能動的な参加を取り入れた学習法)が可能である。しかし、実際に防災についてアクティブ・ラーニングを行う前に、確認すべき点がある。

 私はこれまで東日本大震災(2011年発災)や熊本地震(2016年発災)、各所の風水害など、被災地域の行政機関や保健所などにおいて、行政と医療をつなぐ活動をしてきた。また、新型コロナウイルス感染症の流行後は、新潟県内の患者受入調整センターで医療調整業務にあたり、PCR検査体制の構築や、アプリ開発・プログラミングなども含めた自宅療養グループ支援、離島である新潟県佐渡市におけるモバイルPCR検査の展開などに関与してきた。こうした災害医療現場での経験を教育として還元する手法としてアクティブ・ラーニングが可能であるか、そして災害を克服して未来を支える人材をどのようにして育成していくかについて考えていきたい。

 本年6月に実施した本学会の研修参加者に「防災の最新情報をどこから得るか」というアンケート調査(複数回答可)を行ったところ、「薬剤師会の会報等」の専門家に公布される情報よりも、「新聞などのメディア」や「国や自治体のホームページ」といった一般に公布される情報を頼りにしていることが伺えた(図1)。確かに現状では、災害対策基本法の改正や気象情報などの防災関連情報は、メディアや自治体などのホームページを介して公布されることが多く、薬剤師会から公布される状況にはない。また、研修参加者の内訳は薬剤師歴11年以上が87%であり、経験豊富と言える薬剤師が多くを占める状況であった。

図2:「防災の最新情報をどこから得るか」アンケート調査の回答
和泉 邦彦 先生ご提供

アクティブ・ラーニングによる災害薬事教育

 こうした現状の中、本学会の教育・研修委員会委員長として、まずは本学会の研修やホームページを通じて防災関連の最新情報を得られる状態にしたいと考えている。そして、アクティブ・ラーニングの内容は、支援にとどまらず支援者や組織、地域が支援を受け入れる「受援」や、災害時の薬局機能の停止、医薬品出荷調整などに対応するBCP(事業継続計画)、そして災害時の外傷・救命医療からその後の公衆衛生まで幅広く含める必要があると考えている。

 また近年では、気候変動や新型コロナウイルス感染症などの流行により、防災に関する法律や計画も目まぐるしく変化している。防災に対する知識不足、あるいは急速に変化する防災情報への十分なアップデートなしでアクティブ・ラーニングを実施すると、ポピュリズムや集団浅慮、パターナリズムに陥りやすく、短絡的で同調的議論に終始するということが、一般的に教育理論の中では言われている。そのため、最新の情報に関するビデオ学習教材の整備やオンライン討議システムの習熟といった前提が必要となる。こうした内容を整備し、災害医療支援薬剤師の登録制度変更も視野に入れて防災教育のアクティブ・ラーニングが可能な状態にまで体制を整えることが目標である。

「第2の専門」としての災害医療

 2011年度に開催された「災害医療と医師会」をテーマとする医療政策シンポジウムでは、世界医師会で採択されたモンテビデオ宣言「全ての医師が専門分野において、災害医療に対する標準能力を推進する」が紹介され、「全ての医師の2つ目の専門は『災害対応力』であるべき」との講演が行われた。これまで災害医療は、一般的に救急医療のサブスペシャルティと捉えられてきたが、感染症科や呼吸器科、小児科といったどのような領域の専門家であっても災害時の対応は必要であり、専門領域におけるサブスペシャルティの枠を超えた、「第2の専門」として災害医療を考えていく必要がある。例えば新型コロナウイルス感染症など新興感染症の感染拡大期では、感染症専門家に重症者の治療を委ね、新興感染症以外の疾患も含めた医療調整は災害医療者が行い、専門家を下支えするといった考えが求められる(図2)。災害は、新興感染症以外にも地震や異常気象、事故など、さまざまに起こり得る。そうした災害に対応するには、医師だけではなく薬剤師も含めた医療従事者が、代替や補助的なサブスペシャルティとしてではなく、災害医療全体を「第2の専門」として習得することが求められる。

 そのため、学生やキャリアの浅い薬剤師においては、専門性を深めたプロの薬剤師になることが重要である。つまり、第2の前に、第1の専門家になることが不可欠である。防災教育は、いわば「命の教育」であり、災害への遭遇は自分の意思で回避できないことから、薬剤師養成課程でも社会的ニーズを示しながら時間をかけて防災教育を行っていく必要がある。経験豊富な薬剤師には「第2の専門」として積極的に災害医療について学び、今後、社会的ニーズが増すと予想される地域医療の調整力を身につけてもらいたいと考える。そして各領域の専門性を認められる総合的な視点を持つジェネラリストとして、災害医療におけるさまざまなニーズに対応できるよう防災教育の機会を活用してもらいたい。

図2:「第2の専門」としての災害医療
和泉 邦彦 先生ご提供

コロナ禍における災害薬事教育とは

 新型コロナウイルス感染症の流行などにより、防災に関する知識は激変、急増しており、ポピュリズムやパターナリズムに陥らないためにも、知識をアップデートしつつ、アクティブ・ラーニングにより学び続ける必要がある。また、災害を克服し、未来を支える人材の育成については、平時から職場や地元で、専門領域について実働する人材、そして「第2の専門」として災害医療を教えられる人材を育成することが重要である。地域保健医療のBCP策定や災害時の公衆衛生まで幅広い内容について学べるよう、本学会の教育・研修委員会としても、力を尽くしていきたいと考える。

シンポジウムレポート

地域の災害時公衆衛生を担う薬剤師としてのかかわり
日本災害医療薬剤師学会シンポジウム 2022年7月31日(日)オンライン開催より

更新日:2022.11.28

お役立ち情報一覧へ戻る